北欧、フィンランドをこよなく愛するカフェ店主がつづる日々のあれやこれや。
ひょんなことから山川方夫の小説『安南の王子』を読む。

ピンとこない。二回読んでピンとこなかったので、三回読んでみたもののやはりピンとはこなかった。現実と幻想とがいつしかオーバーラップしてゆくお話。こういう小説はやっぱり、そこに描かれる世界に《酔えない》ことには楽しめないのだということがよくわかった。良し悪しの問題ではなく、たんに《酔えなかった》、それがすべてである。たとえば、嶽本野ばらとかすきなひとだったら《酔える》世界ではないだろうか。あるいは、50年代の「東京」のアンダーグラウンドをおしゃれに描いているという意味で、鈴木清順の『殺しの烙印』だとか中平康の『月曜日のユカ』だとかのような趣きもあるかもしれない。

ストーリーには酔えなくとも、この『安南の王子』には短くて、しかもキャッチーなフレーズがところどころにあらわれる。

「馬鹿が結局いちばん気楽なことを、この賢明な馬鹿どもは知っていたのだ。」

「つまり、かれは一日ずつしか生きなかった。」

いまだったら、さしずめコピーライターとしてその才能をいかんなく発揮するようなひとだろう。などと思ったら、後に『洋酒天国』の編集にもかかわっていたそうだ。納得。

ちなみに、いま手に入る集英社文庫版の表紙はイラストが荒井良二、アートディレクションが菊池信義でこの「お伽噺」にふさわしいつくり。夏休みの小旅行に。

安南の王子 安南の王子
山川 方夫 (1993/10)
集英社

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