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北欧、フィンランドをこよなく愛するカフェ店主がつづる日々のあれやこれや。

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『天然コケッコー』という映画を観たのだけれど(サイトーさん、長々とすいませんでした)、観ながら、島根の山並みのことをなんども思い出した。

原作はS県のちいさな村が舞台で、映画のロケも当然そのS県(島根県)でおこなわれているとはいえ、とりわけ島根の山がこの映画でひんぱんに登場するわけではない。けれども、この映画の登場人物たちがもつ、どこか真綿にくるまれたかのような世界観や、この映画全体を包んでいる空気に触れれば触れるほど、ぼくは松江から出雲空港へとむかうクルマの中から、あるいは一畑電車の車窓からのんびり眺めていたあの山々のことを思い出さずにはいられないのだった。

その山並みはユルユルと、ひたすら視界の片いっぽうを遮っていた。そして、後になって気づいたことだが、それは垣根に似ていた。

山といっても高さはそれほどでもなく、「壁」のように威圧的なところはみじんもない。越えようと思えばいつでも越えれそうな、そんな構えなのに、でもなんだかそれをためらわさせるようなゆるやかな強制力がそこには感じられた。気配だけは薄々と感じられて、いっそのこと勇気をだして背伸びしさえすればすべてが明らかになるはずなのに、目線ほどの高さでつづく垣根はそうすることをどこかでためらわさせる。

この映画の登場人物たちはみな、ためらいつつ、戸惑いつつ、けっして大声を張り上げることもなく、核心に触れることを巧みにかわしながら、海と垣根のような山並みに挟まれた細長い土地に生きている。ほほえみを浮かべて。

ちいさな村にやってきた「都会からの転校生」とか村の少女の「初恋」だとか、ともすれば饒舌になりがちなキーワードであふれているにもかかわらず、あくまでも淡々と、その山並みのようにユルユルと物語はつづいてゆく。そしてそうした語ることへのためらいに貫かれているあたり、むしろ個人的にはこの映画の「ツボ」なのだった。

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(2007/12/21)
夏帆山下敦弘

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