北欧、フィンランドをこよなく愛するカフェ店主がつづる日々のあれやこれや。

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鍼の行き帰りによく利用するのは西武国分寺線という電車。中央線の「国分寺」と西武新宿線の「東村山」とをむすぶ全長8km足らず、所要時間にしてわずか10分あまりの路線である。

中央線の車窓からの眺めがほとんど、きゅうくつそうに立ち並ぶ一戸建て、アパート、マンションばかりなのにたいして、西武国分寺線では、家々にまじっていかにも武蔵野を縦断するこの路線らしいのどかな風景−雑木林や畑など−がひろがる。停車する駅も「恋ヶ窪」「鷹の台」「小川」と、ふらりと途中下車したい誘惑にかられるような「土の匂い」のする名前だ。それにくらべると、荻窪-西荻窪、東小金井-武蔵小金井、国分寺-西国分寺といった中央線の駅名は、いかにも旧「国鉄」らしい「事務的な匂い」を感じずにはいられない。

あいにくの雨模様の月曜日、まもなく終点の「国分寺」に着くというそのとき、突然、目の前の景色が一面の「緑色」に変わる。わずか数秒にもかかわらず、それは、あたかも電車ごと深い森に迷いこんでしまったかのような奇妙な感覚であった。たっぷりと水分をふくみ、より色鮮やかにボリュームを増したかのようにさえみえる樹々の緑は、なにか巨大な獣の横腹のようでもあり、「怖い」、わけもわからずそんな言葉が脳裏をよぎるのだった。

「郊外」へおもむくということは、「中心」から「周縁」へと移動するというただそのことを指し示すのみならず、そのことがもたらす「日常」の異化作用という体験そのことであるかもしれない。


※『雪沼とその周辺』の著者である堀江敏幸が、パリ郊外をめぐってつづった刺激的なエッセイへの、これは「なんちゃってオマージュ」です。
郊外へ 郊外へ
堀江 敏幸 (2000/07)
白水社

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